天狗岩
昔むかしの話しだがのー、水上村外山の中腹にでっかあ岩穴があってのー、そこに鼻が 高ぁて口がへの字のどーらーこわー顔した天狗様がおらっせたと。
そん頃の水上村はのー、田代山に住んどる悪ー鬼んたぁによお襲われてのぉ、とうきび やなすびやらをてれこけ盗られたり、女子どもを連れ去られたり荒けなぁことされとったげな。村の衆はおおじょこいとったが、鉄棒を振り廻す鬼んたぁにどうもできへんかった。
ある日の朝、天狗が外山の岩の上からひどろお朝日を眺めながら周囲を見渡すがさぁと、鬼んたぁが小里川へすんでのところまで来よぉるのが見えた。
天狗は、「よ~し今日こそは二度と水上部落を襲わんようにこらしめてやる」と、ちゃっと外山のてっぺんまで登り、そこからひとっ跳び、下久手の岩の上まで跳んだ。
実は、天狗は鬼んたぁのやってくる小里川からの崖の上にだーぶ前から団子の形をした、たあもなぁ大きな丸い石をぎょうさん積んで鬼退治のまわしをしておいたのだ。鬼んたぁは、小里川の崖を登りょーる途中、そーっと外山の方を見ると、そこに天狗の姿が見えんと喜んだ。とろー鬼んたぁは天狗が待ち伏せしているとは考えんかったんや。 鬼んたぁが、えらーめをしてやっとがさあと登りきるという時、上の方から丸いでっかぁ団子の石が転げ落ちてきた。いっちゃん先の赤鬼の角に当たり、折れた角が下の方に転げ落ちていった。更にどえらぁ数の団子がごろごろ転げ落ちてきた。うろこいた鬼んたぁは、太ー木の影に隠れたり、狭あ岩陰に身を潜めたりしとったが、何匹かが岩の下敷きになって呻いている。そのうちにきつそうな一匹の青鬼がどうにか急斜面の上まで登って見ると、天狗が岩を軽々と持ち上げて鬼んたぁをめがけて投げている。これを見た青鬼は益々青くなって「うわー!天狗や。天狗が団子の岩を投げよぉる。」天狗と聞いては、「こりゃあかん。」と団子の岩にやられたものをその場において、わやこいて我先にと先を争って川に落ちてビタビタになって逃げ帰っていった。天狗は一つの団子岩だけ残して全部がのおなるまで投げちまった。 (残ったこの岩は東濃カントリー倶楽部の6番ホール横に今もあります。) これ以来、鬼たちは天狗のいる水上村を襲うのがとろくさぁなって二度と現れなかった。
そうや。そんで村人は怖い顔の天狗だけど親しみをこめて天狗様と呼ぶんだで。
(もっと知ろう“陶”35 方言昔話(7)より)